2018年2月1日木曜日

東洋と西洋の考え方と融合

人間は二足歩行によって飛躍的に進化してきました。重力下で垂直に身体を維持することが特徴です。

欧米では頭が天に引っ張られるような意識で姿勢を保つという身体感があります。クラシックダンスのように空中に高く跳躍する動きを可能にしています。またオペラの発声方法に、頭も共鳴ボックスにして頭部から声を響かせることができるそうです。
一方、日本ではハラを充実させ重心を据える身体感覚が伝統的に重んじられてきました。能の動きと息の遣いかたにそれがよくあらわれています。私も50代のころから居合と能の謡を習ってきましたが、腰を入れハラを据えた姿勢がいかに重要か、身に持って体験しています。

頭を中心に据えるか、ハラを中心に据えるか、西洋と日本の身体感を特徴づけているように思えます。このことは身体の呼吸のとらえたかにも反映してきます。

アメリカのDr.サザランドの古典的な頭蓋療法は、脳室で産生される脳脊髄液の揺らぎとその循環を促進する方法にエッセンスがあります。一見、硬く見える頭蓋にも弾力的な膨張収縮の動きが必要とされます。頭蓋は複雑な形をした頭蓋骨と顔面骨が巧妙な縫合のしかたで組み合わさってできています。その縫合のあり様をよく観察すると、ある動きのためにデザインされているというDr.サザランドの閃きをだれでも持つことができるはずです。

実際に触れていますと、頭蓋も脳も呼吸運動をしていることが実感できます。赤ん坊の頭に触れてみれば、だれでもわかります。

さて、ハラに中心を据える日本人的な発想から身体呼吸療法を考え始めたわけでもないのですが、うつ伏せになっている患者さんの身体を触れていると、仙骨と第五腰椎部が呼吸によって起き上がり、そして沈み込むという動きをみせます。横隔膜の呼吸運動によって押し下げられた内圧は骨盤隔膜の抵抗にあって、仙骨底を押し上げる力となっていることに気づいたことから始まっています。身体の呼吸を促しているのは横隔膜の呼吸運動であり、それは眠りに入っているときに大きくあらわれることに注目したのです。横隔膜の深い呼吸運動は、骨盤隔膜のテンションとの間に凝縮された力動性の核(ハラ)が生じるとみなしたのです。そのハラの力動性が全身の内圧変動の源泉になっていると考えているのです。

居合や、能の謡でハラを据えた姿勢になるためには、十分に腰を入れる必要があります。これはなかなか身につかない姿勢なのですが、下腹が前下方に押し下げる姿勢です。この姿勢を維持するとなると、ハラに充実感(前述の核にあたります)を保ち続けなければなりません。それが弛むとき息が抜けてしまいますので、これを維持し続けるのは結構たいへんなことです。それでも、このときは決して力んだ姿勢にはなってはおらず、自然に肩の力が抜けています。全身の重心がハラに定まった状態ですから、そこを中心に全身が一つとして動くことができるのです。
能の謡であれば、できるだけ息を漏らさないようにします。長く力強く、身体の内部に発声を響かすためです。いわば身体をスピーカーボックスのようにして、音響施設がなくとも、あの広い空間に響かすことができるのです。「さしすせそ」のような子音が強くなる発声には息が出てしまいますので、たとえば“さ”のときにはsAのようにsをほとんど発声せず、A(ア)の母音を強調する発声になります。ほかにいろいろと、ハラを前に押し出すような力動感など難しいところがあるのですが、言葉ではなかなか伝えきれません。身体で覚えてゆく感覚です。このように姿勢と息遣いが一つになった身体感覚です。

私が創めた身体呼吸療法は、Dr.サザランド先生の古典的な頭蓋療法に、ハラ呼吸による縦方向の呼吸運動を融合させた施術方法となります。患者さんのハラ呼吸はうつ伏せで寝てもらって、その律動感さえつかまえてしまえば、自然に大きくあらわれてきます。
患者さんの中にはなかなかそのリズムをつかまえることが困難なこともあるのですが、その理由についてはまたいつかお話しします。

ご挨拶|身体呼吸道とは

1978年ころアメリカで頭蓋療法Craniopathyに関心をもってから、それ以来ずっと身体の息吹ともいえる身体内部の圧変動を感じるままに探求してきました。その過程で、日本人的な感性からハラ呼吸を意識するようになり、能の息遣い、居合のハラの据え方などを習いながら、ハラ呼吸のメカニ...